緊急度判定支援システム

1.CTASとは

CTAS(シータス)とは、Canadian Triage and Acuity Scale の略称です。カナダにおいては10年ほどの運用歴を有する「救急患者緊急度判定支援システム」で、カナダ救急医学会のホームページで一般公開されており、ダウンロードが可能です。すでに北米やヨーロッパ、アジアでも導入が進んでいる国際的にも注目されている臨床支援ツールです。臨床現場における本システムの特徴をあげるなら、常に日常診療で経験則や暗黙知として運用されている観察・確認項目が具体的に明示され、そこから緊急度が客観的に導かれることにあります。CTASの精度は、救急患者情報システム(CEDIS : Canadian Emergency Department Information System)として並行して運用されているオンラインデータベースに判定結果を入力し定期的に事後検証を行うことで維持されています。カナダでは、検証に伴い項目立て、配置などは適宜、更新されています。

2.CTAS導入の経緯

本学会では、地域における救急医療がどのようにあるべきかを考えるため2005(平成17)年より「地域救急医療体制検討委員会」を立ち上げ、とくに二次救急医療機関活性化の方策について議論をしてきました。その過程のなかで、カナダにおける救急医療体制が話題となり、CTASの有用性を知ることとなりました。カナダにおけるCTAS開発の時期は、わが国の救急医療の危機的状況と酷似し、医療崩壊の建て直し策として登場しており、わが国における医療体制の危機回避に応用できるものではないかと考えるに至りました。そして、その導入に向けて検討すべく、有賀徹代表理事(当時)の指示により、個別に専門委員会を設置することとなりました。時を同じくして、日本救急看護学会においてもトリアージナースについての議論が始められており、2007(平成19)年11月、両委員会を結びつける合同委員会が設置されました。
次いで、カナダ版の院内トリアージシステムをもとに日本版を開発することを念頭に置き、2009(平成21)年12月にはJTAS(Japanese Triage and Acuity Scale;ジェータス)検討委員会(委員長;奥寺 敬/富山大学教授)が設置されました。日本臨床救急医学会と日本救急看護学会を代表して委員長がカナダにおいて開催されたCTAS International Networking 会議に出席し、日本側の経緯などを説明し、CTASおよび周辺教材の翻訳権(内容の使用権および日本版の開発権を含む)を取得しました。また、カナダ側の開発の中心人物である Michael J Bullard医師の来日に合わせて、JTAS検討委員会を開催し、詳細な意見交換を行いました。

3.緊急度判定支援とは

JTAS検討委員会では、CTASを検討するにさいして、まず「トリアージ」という言葉について議論しました。「トリアージ」はわが国ではもっぱら災害時に使用されるもので、混乱・誤解を招くことを懸念するとともに、おもに院内(救急外来)における尺度であることを重視し、「緊急度判定」と呼称することとなり、CTASシステムを「緊急度判定支援システム」と名付けました。
作業はまずCTASの翻訳から始められ、まず直訳版を出版してその内容について広く意見を求めることとなりました。作業開始とともに、JTAS検討委員会を中心とした医師と看護師、総務省、厚生労働省の救急専門官、システムエンジニアなどがカナダの救急医療システムの視察のためエドモントンを訪問し、アルバータ大学においてCTASプロバイダーコースおよびインストラクターコースを受けて帰国しました。

4.CTASプロバイダーコース

「緊急度判定支援システム」は本学会、日本救急看護学会に加え、日本救急医学会の監修を得て、平成22年6月「緊急度判定支援システム CTAS2008日本語版/JTASプロトタイプ」として発行されるに至りました。同書には、書籍内容がWEB上で閲覧できるアクセスキーが付与され、オンラインで常時閲覧できるようになっています。つまりCTASがデータベースとリンクして定期的な修正更新が行われていることに習い、データベースとのリンクを想定して構築されています。カナダには本書のような書籍版はなくWEB上での閲覧のみとなっています。
その後、JTAS検討委員会を中心にCTASプロバイダーマニュアルの翻訳作業とCTASトライアルコースの開催が進められてきました。このマニュアルは日本小児救急医学会を加えた4学会の監修を得て「緊急度判定支援システムCTAS2008日本語版プロバイダーマニュアル」として平成23年1月刊行され、CTASプロバイダーコースの教材として活用されるとともに、CTAS(カナダ版)をJTAS化(日本の実情に沿った内容とすること)に改変するさいの基礎資料となりました。これらの作業が本格化した時期に、3.11東日本大震災が発生し作業は、半年間の中断を余儀なくされました。再開にあたり、日本救急看護学会との合同委員会とJTAS検討委員会の位置づけについても協議され、平成24年4月を目途にCTASをJTASに改変することも確認されました。

5.JTASへの道程と現状

平成23年秋、震災復興予算を主とする政府の第三次補正予算において社会のセーフティーネットの強化がとりあげられ総務省消防庁の「社会全体で共有する緊急度判定(トリアージ)体系のあり方検討委員会」が予算化され、CTASのプレホスピタル版(CPAS)のわが国への導入検討が開始されるとともに、厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)での院内トリアージ加算が答申されるなど、JTASを取り巻く環境が一変しました。
中医協の答申を受け、2012年4月から院内トリアージ加算は医学管理料として診療報酬に反映されることとなりました。JTAS検討委員会では、社会の要請に応えるべく、平成24年4月からのJTAS運用を可能とするために、トライアルとしてJTASプロバイダーコースの集中開催を進めるとともに、WEBシステムと教材の修正に着手しました。未対応の時期での開催のためトライアルコースとしましたが、暫定版ではあってもJTASの運用とJTASプロバイダーコース開催を4月から始めることができました。平成24年6月、監修4学会の承認を得てJTAS2012が公開されました。JTAS2012は我が国の実情に合わせ、「熱中症」、「ワクチン接種後の問題」が新たに加えられました。同時に、緊急度判定支援システムCTAS2008日本語版プロバイダーマニュアル」は『JTAS2012ガイドブック』と名を改め、JTASのWEBシステムのアップロードと同時に発行され、JTASコースの教材として活用されています。2013年9月末現在でJTASコース受講者は4000名を超えています。また、10月からはコース受講料や指導者資格等についても見直しが行われいっそうの普及に向けて関係者らの努力が続けられています。
WEBシステムについては、現在でも随時修正が加えられており、数年の使用実績のもとにデータベース化し近い将来の全面的な見直しに備えることが検討されています。